日曜日、テスタメントは自室で昨日買った本を読みながら気楽に休日を過ごしていた。
静かな自室で本を読むのはテスタの小さな至福の時間だ。
「兄さん、何読んでるんですか」
「単なる推理小説だ、誰も入れない部屋で人がってオイ!」
とっさに席を立ち後ろを振り向く。
そこにはいるはずのないディズィーがニコニコと微笑んでいる。
「・・・いつ入ってきた」
「ついさっきですよ、呼び鈴鳴らしても出てこなかったから、鍵も開いてましたから」
鍵が開いていれば入って来ていいのか。
これからは気を付けなければな、本などを読んでいるとどうも周囲の音が聞こえなくなる。
「で、何をしに来た」
「お昼ご飯作ったので一緒に食べようと思って、サキュも誘おうと思ったのですが」
「サキュバスは朝から出かけているぞ」
「じゃあ兄さんだけでも、新作なんです」
それは私に試し食いをさせたいのではないのか。なんか怖いぞ。
しかしあの目を見るとどうしても断れないしな、私も甘いな。
「それじゃあ食べてくれるんですね」
ディズィーに引っ張られ彼女の家に連れて行かれるテスタ、ちゃんと鍵は掛けていった。
彼女の家に行くのは小学生以来だ、引っ越してたし。

「そういえばディズィー、親はどうしてるんだ、いる気配がないんだが」
「二人とも、青森にいます」
父親は単独赴任、母は父についていき、今この家にいるのはディズィーのみらしい。
「もう出来てますので、すぐに持ってきます」
そういってディズィーは台所に向かった。
リビングに座らされ待つこと数分、おぼんをてにディズィーが入ってきた。
「私のオリジナル冷やしラーメンです」
どん、とテーブルに器がおかれる。
しかしその光景にテスタは言葉を失った。
・・・確かにこれは冷えたラーメンだ、麺、チャーシュー、ネギ、メンマ、ナルト、と基本的なものが乗っているが、スープが……固体だった
「ディズィー、これは何なんだ」
あらためて言う。
「なにって、ラーメンですよ」
「ラーメンはゼリーじゃないぞ」
「はい、ゼラチンを使ってスープをゼリー状に」
なんて物を作ってくれるんだこいつは。
おそるおそる麺に箸を伸ばした。スープ(?)を貫き麺を挟む、口に運ぶと崩れた固体が麺に絡み付いてきてちゃんと醤油ベースのスープの味がする。
でも…やっぱこの感触は嫌だな。
「どうですか、兄さん」
どうですかと言われても。
「私は普通に熱い方がすきだな」
「私は好きですよ、これ」
一通り食べ終わり、彼女が器を持っていき、お茶を飲んで一息入れている。

ピンポーン。
呼び鈴が鳴った
「兄さん、ちょっと出てくれますか、今手が離せないんです」
しょうがなく玄関に向かうテスタ。
呼吸を整えガチャ、とドアを開ける。
「こんにちは、この向かいの家の隣に引っ越してきたABA(アバ)です」
引越し、そういえば昨日隣に誰か引越し来てたな、この人がそうか。
…包帯、ファッションか?所々に赤い物が…深くは考えないでおこう。
隣の大きな鍵のようなものもあるが、追及するのはよそう。
「これ、つまらない物ですがどうぞ」
と、ノートパソコン位の大きさの箱を渡された。
「すみません兄さん、どなたでしたか」
遅れてディズィーが来た。
「私の家の隣に引っ越して来たアバさんだ」
「そうですか、よろしくお願いします」
「あれ、それじゃそちらの方か向かいの方ですか」
首をかしげながらアバはディズィーに聞いた
「はい、そうですが」
どうやら先にテスタの家の方に行ったらしい。留守だったため先にこちらに来たらようだ。
「ところで、その隣にある大きな鍵はなんですか」
ディズィーもアバの横にある大きな鍵状の物に気付いたらしい。
「これは、うちの夫のパラケルスです」
「え、でもそれって…」
「夫です」
「…はい」
世の中は深い物だな、とテスタは思う、それ以前に夫を「これ」扱いする事に気がな〜。
一通りの挨拶を終え、アバはパラケルスをずるずると引きずりながら自宅へ戻っていった。
二人の意見はこのとき一致した。重そうだなと。
「この箱、中身なんでしょうかね」
「タオルとかその辺りだと思うが」
リビングに行き、ディズィーが包装紙を綺麗に取り外し、その包装紙を綺麗にたたみ、タンスの一番下にしまった。主婦か!
そして、箱を開けた。
「兄さん、これってアバさんの」
「夫だな、枕カバーらしいが」
中身はパラケルスの顔の部分の枕カバーだった。
「お手製?」
「らしいな、ほらここの縫い目なんて」
「器用ですね〜」
時計を見ると5時を回っていた。
「さて、そろそろ行くとするか」
「どこに行くんですか」
「夕飯の買い物だ」
「私もついていっていいですか」
「お前の荷物持ちはやらんぞ」
テスタはまず自分の家に戻り、財布などを取りに行った。ポストにアバの入れた袋、カードもついていて「同じ物です」と書かれていた。
部屋を出て数分後にディズィーが出てきた。急いでいたそうか少し息が上がっている。ディズィーはすぐに呼吸を整え、テスタの手を引っ張り歩き始めた。
スーパーについて互いに買い物カゴを取った。
「兄さんは何を作るつもりですか」
「そうだな、スパゲッティが安いからな、カルボナーラと温野菜スープにするか」
「じゃあ私もスパゲッティにしようかな。ミートスパゲッティ」
お互いに買いたい物をカゴに詰め清算した。
「ミートソースも凄く安かったのに、なんで買わなかったんですか」
帰り道、突然とディズィーが聞いてきた。
「久々にあいつの好物でも作ってやろうと思っただけだ」
「好きな物を作ってもらえるなんて羨ましいですね」
お互いに家の前で別れ、家に戻ったテスタは早速夕飯を作り始めた。
20分後、そろそろ出来上がりそうな時に一本の携帯電話が鳴り始めた。
着信はサキュバスからだった。
「あ、兄様、今日友達とご飯食べてくるから、もう作ってたらごめんね」
ピ、ツーツー
どうしよう。すでに出来上がってたカルボナーラと温野菜スープはいい匂いを出している。
しょうがなく、二人分食べた。
翌日、学校ではいつものようなにぎやかさが教室内を響いている。
「はーい皆さん座って―」
ブリ先生の声で皆席についた。
「今日はまた転校生を紹介しますよ」
「どんなのが来るんだろうなーテスタ」
隣からアクセルが話してきた。どやら首は完治したようだ。
「さあな」
「どうぞー」
アクセルと話している間に扉が開かれた。
入ってきたのは制服の上からなぜか包帯がぐるぐるっと巻かれて、テスタとディズィーはどこかで見たような反応をした。
「初めまして、アバです。この包帯については気にしないでください。よろしくお願いします」
教室全体が静まっていた。
席は空いていたテスタの隣がそうなった。
「どんな奴かと思っていたらお前か、専業主婦だと思っていた」
「学生ですよ」
「アレ、テスタちゃんもうお知り合いなんですか〜」
アクセルが変に絡み合ってきた。軽く流しておこう。
「昨日隣に引っ越して来た人だ」
「なんだよ、あいつのライバル登場って面白そうだったのに」
「あいつって誰だ」
「いや、こっちの話」
「あの〜、私には夫がいますので」
「え〜なになに、なんの話」
夫と聞いてメイが飛び込んできた。こういう話が大好きらしい。
アクセルに続いてメイ、カイ等の輩が集まってきた。
色々な生徒から色々な事を聞かれてアバはちゃんとそれに答えた。
「17歳人妻か…」
どっから聞こえたかは分らない。本人には聞こえていなくて良かった。
一区切りが付いた所でアバは一呼吸置き、落ちついている所、こんどはディズィーが話しを掛けた。どうやら話すタイミングが分らなくて今しかなかったと思う。
「アバさんは部活には入るんですか」
これか、私も聞かれたな〜。
「手芸部に入ろうとしてます」
「手芸部ですか、似合ってますね」
確かに合うかもな、テスタは昨日貰った枕カバーをい思い出した。
「顧問の先生はここの担任のブリ先生ですから」
「わかったわ、ありがとうディズィーさん」
アバがぺこりと軽くお辞儀をしたと同時にチャイムが鳴ると同時にブリジット先生が入ってきた。

六話に続いていよう
あとがき


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